キクチ・ヒサシ

文化と芸術を言祝ぐ『コトバの塔』

チャップリン

チャップリン「独裁者」(1940)名演説全文を日本語に翻訳。道化は救世主元型に変容。

2024/08/13

チャップリン「独裁者」(1940)を観た。時は、終戦前、ヒトラーも存命の時代に、危険を顧みず、愛に満ちた真実のメッセージを発信した男がいた。チャールズチャップリン。道化は、人違いから、演説をすることになる。独裁者に顔が良く似た床屋として、道化によく似た救世主像となって。


チャップリンの演説
(日本語訳 
キクチ・ヒサシ

すまないが、わたしは皇帝にはなりたくない。それはわたしのしごとではない。わたしは支配したくない、誰かを征服したくないのだ。できるならわたしは皆を助けたい、ユダヤ人も黒人も白人も。

わたしたちは、お互いに助け合いたい。人間とはそういうものだ。わたしたちは、お互いしあわせに生きていたいのだ、惨めにではなく。お互いに憎んだり、軽蔑したりしたくない。この世界には、皆の場所がある。この青い星には皆を養えるだけの富がある。

生命の道とは、自由で美しいものだ。しかし、わたしたちは、道を失ってしまった。貪欲は、人の魂に毒を塗り、憎悪に満ちた世界がバリケードをもたらし、悲劇と流血をもたらした。

スピードを手にしたが、わたしたちはひきこもりになり、機械は豊富さを与えて、わたしたちを欲望の中に置き去りにしている。知識は、わたしたちをシニカルにし、冷酷で不親切にしている。

わたしたちはたくさん考える、そして、感じることは少なくなっている。機械よりも、わたしたちはヒューマニティを必要としている。頭でっかちよりも、親切さと礼儀を必要としている。これらのクオリティなしでは、生命は荒れ、全てを失ってしまうだろう。

航空機とラジオはわたしたちをより近づけた。これらの発明は、人の良きものを強く求める。わたしたちをひとつにするために、全世界の兄弟関係を求める。現在も、私の声は世界の数百万に届いている、数百万の失意の男に、女に、子供たちに。無実の人々を拷問し、投獄するシステムの犠牲者たち、わたしの声が聞こえる人たちよ、わたしは言う。「希望を失うな」

現在は惨めだが、貪欲は過ぎ去る、人類の進歩の道を恐れている者の苦み、憎悪は過ぎ去り、独裁者は滅び、彼らが奪った力が、人々に戻ってくる。自由は決して滅びることはないだろう。

兵士たちよ、獣に自分を渡すな、独裁者はあなたを軽蔑し、奴隷にし、あなたの命を統制する。 何を考え、何を感じ、何をするのかを彼らはあなたに言う。あなたを訓練し、痩せ細らせ、キャノン飼料として、牛のように扱う。

不自然な人間、機械の頭と心をした機械人間にあなたを渡すな。あなたは機械ではない、あなたは牛ではない。あなたは、ひとだ。胸に愛を抱いている。憎んではいけない、愛さないことだけを憎むのだ。愛さないことだけ、そして不自然だけを。 兵士たちよ、奴隷制度のために戦うな、自由のために戦うのだ。

聖人ルークの十七章に書かれている、「神の王国は人間の中にある」と。ひとりの人ではない、グループの人でもない、すべての人間の中にだ、あなたの中にだ。誰もがだ。
あなたたち誰もが力を持っている、機械を創る力を、しあわせを創る力を持っている。自由で美しい人生にする力、この生をすばらしい冒険にする力を。

民主主義の名のもとに、この力を使おう。その力でわたしたちを一体にし、新しい世界の為に戦おう。良き世界では、人に仕事の機会を与えよう。未来を与え、生のまっとうと安心を与えよう。

これらの約束によって、独裁者は力を得た。しかし、彼らはうそをついた。約束を満たさず、彼らは決して行わない。彼らは彼ら自身を解放し、人々を奴隷にした。

今、約束を果たすために、わたしたちは戦おう。自由な世界に向けて戦おう、 国と国の壁を離れることに戦おう、貧欲と憎悪と不寛容を離れよう。科学と進歩が、全ての人をしあわせに導くようにと、戦おう。兵士たちよ、民主主義の名のもとに、わたしたちをひとつにしよう。

ハンナ 聞こえるか?どこにいても、見上げるんだ。

雲が上がっていき、太陽が姿を現している。わたしたちは、闇から出て、光の中に入っている。わたしたちは新しい世界の中に入っている。良き、新しい世界は、彼らの憎悪と貪欲と野蛮の上にそびえ立っている。

見上げてごらん、ハンナ。人の魂は、翼を与えられていた。そして、ついに飛び始めた。虹の中に飛び始めたよ。希望の光の中に、未来の中に。輝かしい未来があなたに、わたしに、すべてのわたしたちに。見上げて、ハンナ。見上げるんだ。

-チャップリン