キクチ・ヒサシ

文化と芸術を言祝ぐ『コトバの塔』

レディオヘッド:A moon shaped pool

レディオヘッド、サマーソニック(2016)ライブレビュー、セットリスト(大阪・東京)

2018/03/27

レディオヘッド、サマーソニック大阪2016の感想を書きたいと思います。学生時代から付き合って来たバンドが、現役で、同時代に新曲を鳴らし、創造した曲を磨き続け、この列島にやってくる、というのは、うれしいことです。

サマソニ大阪2016、レディオヘッドライブ

目次

  1. レディオヘッド「時代を映す鏡、魂の療養所」
  2. ライブレビュー・レポ「天と地の融合、祝祭の音楽」:レディオヘッドサマーソニック2016大阪
  3. セットリスト:(大阪・東京)レディオヘッドサマーソニック2016
  4. レディオヘッドサマーソニック2016動画「カーマポリス」「クリープ」

レディオヘッド「時代を映す鏡、魂の療養所」

誰でも思い出の曲というのがあるように、わたしにとっては、Radioheadの全ての曲やアルバムは、わたしが生きた時代を映す鏡として機能します。そして今も現役であるということ、再結成バンドでもなければ、過去のヒット曲を毎回同じように演奏するバンドでもない、洗練され続けている楽曲群と新曲をひっさげたバンドなのです。

レディオヘッド、サマーソニック大阪2016

「KidA(2000)」が発売された大学時代の若さと愚かさに満ちた生活、その希望と絶望に、その音響は深く染み入りました。「InRainbows(2007)」は、世界の西側から光のようにやってきて、わたしの生活に対して、有効な楔を打ち込み、一つの起点となり、恵みの虹になって、わたしを支えました。職場に向かう電車の中で、まさに狂ったように、このアルバムだけを一年間聞き続けたのでした。レディオヘッドの曲と共に生きてきたのです。生きるBGMとして、魂の療養所として、その芸術はわたしの心を励まし、救ってきました。

継続するということは、そこに進展がなければなりません。進展がないものを、長く続けることは出来ず、それはやがて衰退します。音楽と一体になる者たちに、次へと先へと生きて行く姿勢がなくては、その音楽もまた過去の焼き直しに留まり、退屈なものになり、消耗し、石化し、枯渇するでしょう。レディオヘッドは、更に進もうと熱意を持ち、新しい血を入れ続けました。そして「A MOON SHAPED POOL(2016)」という最高傑作を生み出し、ひっさげて列島にやってきたのです。

ライブにおける楽曲群の進化もまた、絶えずわたしを感動させ、数々の名盤アルバムから、一体何が飛び出してくるかわからない、イントロだけでは、どの曲かわからないような新鮮な演奏に昇華されている曲もあり、それはいつも美しい体験になりました。サマーソニック(2016)もまた、スペシャルなライブでした。

サマーソニック大阪

ライブレビュー・レポ「天と地の融合、祝祭の音楽」:レディオヘッドサマーソニック大阪(2016)

レディオヘッド、サマーソニック2016
酷暑の中に涼しい風が吹き始めた19時過ぎ、オーシャンステージ前には、熱気が満ち、この大阪の地で、レディオヘッドと共に夏を祝おうと人々が立ち尽くしていた。陽射しを遮る帽子やサングラスやタオル、地べたに座り込んだ男女の投げ出された足とペットボトル。夕陽は静かに落ちていき、上空をヘリコプターが飛んだ。ステージの上で、機材のセッティングに人々が動き回り、わたしたちの上には小さな暗雲が漂って、細かい水滴をいくつか落とした。「もう降るなら降ってくれてもいいな」と誰かが言うのが聞こえた。小さな隙間でもあろうものならば、ステージに近づこうと必死な者がいた。暑さの中、レディオヘッドのライブを観ようと、人々は、懸命に生きている。これは祭りなのだった。古くからの祭りは、その音、かけ声、踊り、全てが、心の深層に強く響いてくる、普遍的な表現となっているのと同じように、わたしたちは、きっとレディオヘッドの音楽に、祝祭を感じ取り、そこに集結するのだった。そこには暗躍する悪魔も、救済する天の優しい調べも、激烈な雷を落とす神の怒りも、全てを破壊する嵐も、育て癒す水の心も、音楽という芸術の中に、万華鏡的に捉えられ、融合し、全体として美しく恐ろしい祭りのようになって、わたしたちに降り注ぐのだった。その音は、世界中に遠心してきて、今、その光の本体は、大阪に上陸し、ステージのすぐそばにまで来ているのだ。

メンバーがステージに姿を現したとき、その光に向かって、10メートルは一気に前進した。求心力が、まさに眼前で働いて、人々の塊が、そして魂が、ステージの引力に惹きつけられている。新譜から5曲連続で演奏される。絡み合う音の響きの中で、統一感を与えるべく歌われるようなトムの声が、懸命に音程を探っているのを感じる。「Daydreaming」のような曲を全体として成り立たせることの困難をわたしは思う、そして、それを美しく鳴らしているレディオヘッドに恍惚とする。彼らが、至高の世界を表現する為に鍛えた下半身の強さ、身体の継続的練磨について心がさまよう。演奏は、つまらないところがなく、今現在、生み出されている感じが強く、決まりきった演奏をしているという感じは微塵もない。というよりも、楽曲の性質上、これをステージで演奏しようということはもはや挑戦であり、自然の暴風のような音が吹き荒れて、それはシンプルだが複雑で恐ろしいような深みがあり、その中に、かろうじてトムの歌声のみが人間をつなぎとめているといった風なのだ。トムの歌にしがみつかなければ、音響の脅威に全てを持っていかれるような気持ちさえしてくる。そうして、トムの声に救いを求めるかのようにそこに焦点を合わせ、煌めく万華鏡のような音と大地を踏みしめ踊り倒す精霊たちが跋扈するのを目の当たりにする。気付けば、雪の結晶、細胞の結合、組み合わさった蜂の巣、美しい曼荼羅のような何かをわたしはイメージし、全体として、これが世界だと認める。そこには地を這う者と天に飛ぶ者の見事な融合がある。わたしたちは、大地を足で踏み鳴らし、飛び跳ねている、両手は天に向かって差し出され、それはひらひらと蝶のように舞う。それは精霊を迎えて、遊ばせ、再び天に還すお祭りのようだ。それは、自由に本能を遊ばせる中に自然と現れる、生の肯定であり、大文字のYESのダンスであり、美しい祝祭のようだ。それは縄文人の土器のように、はみ出した大いなる生命の火が、激しく燃え盛っているかのようだ。

レディオヘッド、サマソニ大阪2016レビュー

「2+2=5」が、美しいメロディと激しいギターリフを融合させて、会場を熱狂の渦に巻き込み、「Airbag」のイントロは、驚きの喚声に重なり、疾走する。「Reckoner」と「Pyramid song」で天高く飛翔したかと思えば、「Bloom」が稲妻走るような衝撃的な警告音を点滅するように鳴らし、大地を這うような圧巻の歌声が低く長く吐き出される。「A moon shaped pool」に戻り、「Identikit」「The Numbers」がパワーに溢れて表現される。それは圧倒的な力だった。目に見えない音が、ずしんと心の蔵を揺らし、共鳴している。水の結晶「Weird Fishes」天空にわたしたちを運ぶ宇宙船のような「Everything In Its Right Place」のピアノと呪術的に繰り返される祝詞、レディオヘッドという箱舟の船長がトムヨークなのだった。そこから連発する花火のように「idioteque」のリズムが迸り、「There There」のドラムスに乗って甘い官能に浸る。そして、彼らは何度もお辞儀をして舞台を去っていく。どよめきが起こり、「そんなはずはない」「また出てくるはず」「時間的にもまだやるはずだ」不安と期待が、たたみかける拍手の音となって響き渡る。再び、姿を現した男は、「Exit Music」を歌う。その美しいメロディと不吉な歌詞は、天まで連れて行く。ロミオとジュリエットの出口は、天空なのだ。ベンズ時代が最高潮に進化したような「Bodysnatchers」の暴れる轟音、「Separator」の静謐、「The National Anthem」の密度高い音とリズムが、大阪港に響き、そこには大地を踏み鳴らす列島の民がいる。「Karma Police」で人々は、合唱する。人間の世界に戻ってきたような名曲を、人間らしくわたしたちは合唱して、その幕は下ろされる。亡骸となったステージが、空白を囲む巨大なステージセットが、そこに白い靄を漂わせている。わたしたちはひとつの祭りの終わりを知り、帰りの混雑とバスやタクシーの心配を始め、その足は、夢のような時間を想って歩くのだ。いつかこの時間が、星のように胸に光る宝物になることを祈って。

レディオヘッド、サマーソニック大阪

サマーソニック大阪2016、レディオヘッドライブ

セットリスト:(大阪・東京比較)レディオヘッド、サマーソニック(2016)

サマーソニック2016大阪と東京のセットは「A moon shaped pool」を中心に同曲がプレイされましたが、7~8曲の相違があります。

大阪

1 Burn the Witch
2 Daydreaming
3 Decks Dark
4 Desert Island Disk
5 Ful Stop
6 2+2=5
7 Airbag
8 Reckoner
9 Pyramid song
10 Bloom
11 Identikit
12 The Numbers
13 Feral
14 Weird Fishes/Arpeggi
15 Everything In Its Right Place
16 idioteque
17 There There

18 Exit Music (For A Film)
19 Bodysnatchers
20 Separator
21 The National Anthem
22 Karma Police

東京

1 Burn The Witch
2 Daydreaming
3 Decks Dark
4 Desert Island Disk
5 Ful Stop
6 2+2=5
7 Airbag
8 Reckoner
9 No Surprises
10 Bloom
11 Identikit
12 The Numbers
13 The Gloaming
14 The National Anthem
15 Lotus Flower
16 Everything in its Right Place
17 Idioteque

18 Let Down
19 Present Tense
20 Nude
21 Creep
22 Bodysnatchers
23 Street Spirit

セットリスト比較

・大阪のみでプレイした7曲
Pyramid song
Feral
Weird Fishes/Arpeggi
There There
Exit Music (For A Film)
Separator
Karma Police

・東京のみでプレイした8曲
No Surprises
The Gloaming
Lotus Flower
Let Down
Present Tense
Nude
Creep
Street Spirit

相違の中では、大阪の「カーマポリス」「Exit Music」と東京の「クリープ」「Let Down」の辺りが双璧を為して東西というところでしょうか。個人的には「Separator」が良かったです。両方合わせて、ありがとうレディオヘッド。列島に良い風が吹きました。

レディオヘッド、サマーソニック2016動画「カーマポリス」

「カーマポリス」(大阪)

 

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